トランス式のオーディオ用電源を作りました。
随分前に気の迷いで買ったトランスがあったんですが流石にほったらかしにし過ぎたのでそろそろオーディオ用電源でも作ろうかと。と言ってもよくある立派なオーディオ用電源ではありません。ファミコンのACアダプターみたいなもんです。
電源は気分屋
オーディオ用電源と言えば基本的には電圧が一定な安定化電源です。一方今回私が作るのは安定化せず電圧が負荷によって変動する電源です。
安定化回路は接続する機器に内蔵か必要に応じて機器の直前に入れれば良いと言う考えです。
安定化しないトランス式電源と言うのはファミコンのACアダプターみたいなもんです。交流100Vをトランスで必要な電圧に下げて整流して直流にすると言う単純な物です。スイッチング式が主流の今では珍しくなりました。
今回はUSB DAC用に作るんですが、このUSB DACにはスイッチング式のDCDCコンバーターが内蔵されていてこれが安定化回路になります。結局スイッチング式になるので「トランス式電源で音質アップ」と言う事でもないんです。
トラ・トラ・トランス
AliExpressで購入した30WのRコアトランスを使います。オーディオ用としてはトロイダルコアトランスの方が人気でしょう。一方ファミコンのACアダプターはEIコアトランスと言う物です。これはそのどちらでもないトランスです。
Rコアトランスは薄型・軽量・低損失、唸りも少ない高性能なトランスな割にお手頃価格です。突入電流が大きいと言う欠点もありますが自作のオーディオ用電源としては扱いやすい方でしょう。
購入したトランスは15Vを出力しますがそれには入力に115V必要なので、100Vで使うと0.87倍の電圧になります。更に整流すると√2倍になるので、大雑把に計算すると15V x 0.87 x √2 = 18.46Vとなり、これが実質的な最低電圧です。
トランスは負荷が少ないと出力電圧が高くなります。定格の電圧はあくまで定格の電流を流した時の電圧です。イレギュラーではありますが定格を超える電流を流すと更に電圧は下がります。
このトランスを実際にコンセントに繋いでみたところ無負荷で12.5Vぐらい出てました。思ったより低いです。*1 定格の予想値より低いですが負荷が少なくてもあまり電圧が上がらないのは扱いやすいです。
1次側が1回路で2次側が2回路と言う構成です。2出力の電源にしようと思うので都合が良いです。
黒と青のコードで100V(115V)になります。黄は230V用で100Vを入力すると出力電圧が半分になります。緑と黄のストライプはアースです。このアースをちゃんと接続するために先日電源タップを購入した次第です。
コネクタとケーブルの不完全性バ理
電源の出力コネクタにはGX12という物を使います。しっかり固定できて大電流が流せます。取付穴φ12mmでピン数はいくつか種類がありますが2ピンなら7A流せるそうです。*3
AliExpressで見つけたオーディオ用電源が取付穴φ16mmのGX16を使っていて、それでは大き過ぎるのでもう少し小さい物をと探して見つけました。
このGX12のジャックとプラグのセットをAmazonで購入しました。
機器への入力は外径5.5mm・内径2.1mmの一般的なDCプラグにしたいんですが折角7A流せるのでケーブルもそれなりの物を探しました。延長ケーブルですが7A流せ耐圧も24Vあります。
取り合えず材料が届いたのでケーブルを先に作っておきます。
GX12プラグは内側にバリがあったので鑢で削ります。この辺は毎度の中華品質ですね。
購入したDCケーブルは平型コードで色分けされていないのでちゃんとセンタープラスになるように極性を確認します。GX12にはピンに番号が振られていたので1をGND、2をV+としました。
ケースバイケースと言いながら答えは大体いつも同じ
ケースをどうしようかと毎回悩んでる気がしますが悩んだ挙句やっぱりタカチのUC-9-5-12DDを使う事にしました。馬鹿の一つ覚えですがデザインと扱いやすさを考えるとこれで良いんじゃないかと思います。
この時トランスのアース線に気付いていなくてメガネコードで繋ぐつもりでした。インレットの大きさもそれ程でもないですし、何とかこのケースにも収まるだろうと。
しかしトランスを弄っていてアース線の存在に気付いたのでこれは繋いだ方が良いよねって事でメガネ型じゃなく3Pのインレットを使う事にしました。
メガネ型のインレットならドリルで孔を2つ開けて鑢で整えれば良いだろうと思っていましたが、3Pインレットとなるとハンドニブラの出番です。どうせニブるならヒューズソケットも一緒についてる物を、いや折角だからロッカースイッチ付いてるやつにしようぜ!と調子に乗って全部入りのインレットを購入しました。
でかいな…
届いたインレットはやっぱりでかいです。縦には収まらないので横向きに収めます。
このインレットの他にトランスを入れて、ダイオードブリッジ入れて、平滑用のコンデンサを入れて、前面にジャックを付けて…
「できるかな?」じゃねぇよ。やるんだよ。
回路を整理
回路図は書くまでも無いと言うか書くのも面倒なんですが、簡単に流れを書くとAC入力、L端子にヒューズ、ACロッカースイッチ、ここまで全部入りインレットです。
それをトランスの1次側、Nを黒コード、Lを青コード、アースを緑・黄ストライプコードに接続で入力側終了です。
出力側はトランスの2次側の白コードペアと、橙コードペアをそれぞれのダイオードブリッジに接続、ダイオードブリッジの出力に1000μFの平滑用コンデンサを繋いでGX12で出力。
接続も単純で部品点数も少ないです。ダイオードブリッジは組むのが面倒なので単体でブリッジになっている物を使います。ケースにネジ止めできる物なら扱いが楽です。
本当に安定化回路の無い単純なトランス電源です。
ケース加工と配置と配線
インレットの孔のため型紙を作りました。適当に寸法出しして厚紙を切り抜きます。これをパネルの良き所にセンタリングしてマジックで縁取りします。これはあくまで目安で結局は現物合わせになります。
フロントパネルのGX12ジャックはトランスを避ける位置にします。インレット側にスペースが開くのでそちら側のケースの取付穴にダイオードブリッジをネジ止めします。
平滑用のコンデンサは後回し。実際のスペースを見ながら考えましょう。
穿て!ホールソー12mm
GX12は取付穴がφ12㎜なので12mmのホールソーを購入しました。これでフロントパネルに孔を2つ開けます。感動の仕上がりです。
リアパネルのインレット取り付け孔はハンドニブラを使いますが、そのハンドニブラを入れるための孔もこのホールソーで開けました。やはり感動の仕上がりなので無駄にバリ取りしてみました。
GX12は本当はもう少し中央寄りのバランスの良い位置にしたかったんですけどね。トランス大統領の存在感に遠慮しました。
ニブれ!板厚1.7mm
リアパネルはここからハンドニブラでニブっていきます。
ニブっていくんですが結構きつくて手が痛くなります。もうちょっとサクサクニブれるイメージだったんですが… パネル厚い?ノギスではかると1.7mm… あれ?インレットの爪に1.2って書いてあったような…
邪念を捨ててひたすらニブります。
使っているハンドニブラがどのメーカーのどの商品かはわからないんですが、同様の物を見るとアルミで板厚1.5mm迄とあります。そりゃキツイわけですよ。
ちょうどアルバム1枚聞き終わったところでほぼ終わりと言うところまで来ました。最後に残った角とガタついたラインを鑢で削りインレットをがはまる事を確認します。
保護ビニールを剥がしてインレットを装着… あれー?
わかってたさ…
インレットの爪をナイフで削り無事嵌りました。
立てろ!ネジ穴3mm
パネルに各パーツを取り付けられたのでそこからトランスの位置を決めます。リアパネル側に余裕を持たせたいので極力前側に配置します。
トランスをケースに直接ネジで固定するためトランスの足の固定孔に適当に印をして2.5㎜のドリルでケース底面に孔を開けます。その後タップでM3のネジ穴を立てました。
トランスを弄るにしてもケースに固定されていた方がやり易そうなので固定しておきます。ネジ穴の1つがあやしいけどちゃんと固定できました。ボルトが底から若干出っ張るのでゴム足も取り付けておきます。
繋げ!無鉛はんだ0.6mm
各パーツをはんだ付けして繋ぎます。
まずはインレットの配線をやっておきます。ロッカースイッチと繋がっていないので予めインレットやヒューズソケットに配線しておく必要があります。そしてそれをトランスに繋ぎます。Nを黒コード、Lを青コードです。トランスにも極性があり0V表記が巻き始めなのでそちらにNを繋ぎます。*4
次にダイオードブリッジに配線します。新電元工業のRBA-406Bです。耐圧60Vで4A流せるので今回のトランスには十分です。交流電圧はピークが√2倍、ダイオードの耐圧は更にその倍あれば良いので今回は35V以上なら問題無いでしょう。大雑把に3倍なんて言われますね。
このダイオードブリッジにノイズ対策としてMLCC 0.01μF(C0G)を繋いでおきます。交流の各極とGNDを繋ぎます。無くても問題は無いでしょうけど一種のおまじないです。
万一外れないように足をぐるぐる巻きにして絡げてはんだをもりもりにしておきました。そしてケースのプレートにネジ止めです。
次にフロントパネルにGX12ジャックを取り付けます。平滑用の1000μFの電解コンデンサもここに取り付ける事にしました。東信 UTWXZ 35Vです。平滑用としては取り合えずこのぐらいの容量があれば十分でしょう。12.5V x √2の耐圧は25Vでも良いんでしょうが、念のため35Vです。
これで配線終了です。配線は単純ですが作業はちょっとてこずりました。ヘルピングハンズを導入した方が良いんでしょうね。
細工は流々仕上げを御覧じろ
インレットに1Aのヒューズを装填して電源を入れてみます。その辺にある3Pの電源コードが…ありません。
3Pの電源コード、色々と付属している物が溜まっていたような気がするんですが、溜まり過ぎて捨てたような気もしますが、だからって1つも無いって…
部屋の中を探すんですが、USBケーブルが大量にある事が発覚したぐらいです。
そう言えば色んな機器に付属のコードはプラグが2Pプラグにアース線と言う感じで使わないので捨てて… 結局1つも残らなかったと言う事ですか。
どういうことだってばよ?
プラグは3Pにしてください。マジ頼んます。
とは言え電源のテストをしたいので適当な機器から拝借します。普段使わなくてアース付きのコードを使う機器と言えばプリンターとスキャナーですか。いや、プリンターはこれから確定申告で使うのでスキャナーぐらいしか…
兄ちゃんいいコード連れてんじゃん
でもプラグが2Pでしたよ。
コードを繋ぐとロッカースイッチが点灯。いよいよ点火式です。ロッカースイッチをONにして消灯しないか確認します。ヒューズが切れたらロッカースイッチが消灯します。
無事点灯継続中。異音もしなければ煙も吹きませんし電解コンデンサも破裂しません。と言う事で出力電圧をはかると両方とも約17.3Vでした。
ケースの蓋をしてDACに繋いで音を出してみます。
うん。何ともない。音の違いはわかりません。*5 悪くならなければ良いんです。トランスが唸ったりハムが乗らないから良いんじゃないですかね。
やっぱり音が良くなってました。雰囲気と言うかディティールの表現や定位が良くなりました。
コンセントからのノイズ対策にACラインノイズフィルターでも使ったKEMET R46 275Vac 0.33μFをインレットに繋いでおきます。実際にコンセントに挿すだけでラジオのノイズが減ったりするのでノイズ対策としては効果があります。
当然音は変わりませんよ。
これにて完成
これで2口のDC電源タップとして使えます。開いてるもう片方には安定化回路を内蔵させたヘッドホンアンプを作って繋ごうと思います。そのうちですが。
Rコアトランスを使うのは初めてでしたがオーディオ用電源としても簡単に作れましたし、特に問題も無さそうなのでパワーアンプ用も作ろうかと思います。そのうちですが。